こんにちは!元シンガポール人材紹介エージェントのトラたびです。
「シンガポールで働いてみたい!」
そう思って求人を探し始めたあなたが、まず間違いなく向き合うことになるのが「就労ビザ」の壁です。
「給与基準さえクリアすれば大丈夫でしょ?」
「スキルがあれば、ビザは会社がなんとかしてくれるはず」
エージェント時代、私はこういった期待が「思わぬ壁」にぶつかる瞬間を何度も見てきました。
シンガポールのビザ制度は、一見すると複雑ですが、そのルールは非常に明確かつ戦略的です。
この記事では、単なるビザの取得条件だけでなく、多くの人が見落としがちな「本当の壁」と、それを乗り越えるために「本当に求められる人材像」を、元エージェントの視点から徹底解説します。
【結論】ビザ申請の成否を分ける3つの壁とは?
早速結論から。
シンガポールでの就労ビザ取得の成否は、あなたのスキルや経験だけでは決まりません。
以下の3つの「壁」が大きく影響します。
- 壁① COMPASSスコア: あなた個人の能力に加え、企業の多様性やローカル雇用への貢献度まで含めた総合評価が求められます。
- 壁② 企業側の事情: 採用コスト(クオータ/レヴィ)や社内スコアをクリアできる「投資価値のある人材か」をシビアに見られます。
- 壁③ シンガポール人優先の雇用ルール(FCF): どんなに優秀でも、「まず国内で人材を探す」という国が定めた手順を踏まないと、外国人の採用選考に進めません。
「なんだか難しそう…」と感じたかもしれません。でも大丈夫!
一つずつ仕組みを理解すれば、取るべき戦略が見えてきます。詳しく見ていきましょう!
まずは基本から|シンガポールの主要就労ビザの違い
プロフェッショナル人材が目指す主な就労ビザは「EP」と「S Pass」の2種類です。
最近、トップタレント向けに「ONE Pass」も新設されました。
- EP (Employment Pass):
専門職・管理職、経営幹部向けの最も一般的な就労ビザ。
年齢と連動する給与基準と、後述するCOMPASSで40点以上を獲得することが必須です。 - S Pass:
中程度のスキルを持つ専門職向けのビザ。
企業のクオータ(外国人雇用枠)とレヴィ(人頭税)という企業側の制約が大きな壁になります。 - ONE Pass (Overseas Networks & Expertise Pass):
あらゆる分野のトップタレントを対象とした特別なビザ。
月給30,000ドル以上など非常に高い基準が設けられています。
| パス種別 | 対象となる人材像 | 最低給与基準(月額) | 主要な評価制度 | 雇用主の負担 |
|---|---|---|---|---|
| Employment Pass (EP) | 専門職、管理職、経営幹部 | $5,600~(年齢・業種で変動) | COMPASS(ポイント制度) | なし |
| S Pass | 中技能熟練労働者 | $3,300~(年齢・業種で変動) | – | あり(クオータ制およびレヴィ) |
| ONE Pass | 全ての分野におけるトップタレント | $30,000~ または顕著な実績 | 給与基準または顕著な実績 | なし |

近年のトレンドとしては、改訂のたびにビザ取得の難易度が高くなっています。
絶対理解すべき新評価制度「COMPASS」徹底解剖
EP取得の最大のカギとなるのが、ポイント評価制度「COMPASS」です。これは、候補者がシンガポールの労働市場をいかに「補完」し、価値をもたらすかを評価する仕組み。合計40点以上で合格となります。
評価は個人の属性と企業の属性に分かれています。
| 項目 | 属性 | 評価内容 | 20点(期待を上回る) | 10点(期待通り) | 0点(期待未満) |
|---|---|---|---|---|---|
| C1: 給与 | 個人 | 同業種・同年齢層のローカル人材との給与比較 | 90パーセンタイル以上 | 65~90パーセンタイル | 65パーセンタイル未満 |
| C2: 学歴 | 個人 | 候補者の学歴 | トップティア教育機関 | 学士号相当 | 学士号相当なし |
| C3: 多様性 | 企業 | 企業内での候補者の国籍比率 | 5%未満 | 5~25% | 25%以上 |
| C4: ローカル雇用 | 企業 | 同業他社と比較したローカル雇用の比率 | 50パーセンタイル以上 | 20~50パーセンタイル | 20パーセンタイル未満 |
| C5: スキルボーナス | 個人 | 職務が人材不足職業リスト(SOL)に掲載 | +20点 | – | – |
| C6: 戦略的経済優先ボーナス | 企業 | 政府認定プログラムへの参加 | +10点 | – | – |



個人の経歴や給与だけの問題ではなく、応募企業の状況によってもビザ取得難易度が変わってきます。
自分のCOMPASSスコアを知るには?
公式サイトに自己評価ツール(SAT)がありますが、
利用にはSingpass(シンガポールのデジタル身分証)が必要なため、日本在住者が自分で試すことはできません。
一番確実なのは、シンガポールに詳しい転職エージェントに経歴書を見せて相談し、スコアを予測してもらうことです。
S Pass取得の“見えない壁” — クオータとレヴィを理解する
S Passを目指す場合、COMPASSはありませんが、もっと直接的な「壁」があります。それが「クオータ」と「レヴィ」です。
- クオータ(外国人雇用枠):
企業がS Pass保持者を雇える人数は、全従業員に対する比率で厳しく制限されています。
サービス業なら10%、製造業などその他は15%が上限です。 - レヴィ(外国人雇用税):
企業はS Pass保持者1人につき、毎月$650の税金を政府に納める義務があります。
つまり、企業にとってS Passの採用枠は「コストのかかる希少な資源」なのです。あなたの能力とは別に、企業に「空き枠」と「予算」がなければ、採用は始まりません。
【本題】ビザ取得の「本当の壁」を乗り越える3つの戦略
では、これらの壁を乗り越えるために、具体的にどうすればいいのでしょうか?3つの戦略をお伝えします。
戦略① C1/C5を意識し「給与額面」以上の市場価値を創る
COMPASSの個人スコアを上げるには、給与(C1)とスキル(C5)が鍵です。
- SOL(人材不足職業リスト)を狙う: あなたの職務が政府の定める「不足職種」に該当すれば、無条件で+20点。アグリテック、グリーンエコノミー、ICTなどの分野がリストアップされています。
- 給与の「相対評価」を意識する: EPの最低給与額(23歳で$5,600〜) をクリアするのは大前提。C1で高得点を取るには、同業種・同年齢のローカル人材と比較して高い給与(90パーセンタイル以上で20点)を得る必要があります。


戦略② 企業のC3/C4スコアを意識し「貢献価値」を提示する
これからは、応募先企業の従業員構成もリサーチ対象です。
- 企業の多様性(C3)に貢献する: もし企業が特定の国籍に偏っている場合、違う国籍のあなたは「多様性を高める人材」として評価され、C3で高得点を得られる可能性があります。
- ローカル雇用(C4)への貢献をアピール: 特に30代以降のマネジメント経験者は、「現地スタッフの育成」や「チームマネジメント」の経験をアピールすることで、企業のローカル雇用への貢献期待を高めることができます。
戦略③ 「シンガポール人優先ルール」を理解し、企業と並走する
これはFCF(Fair Consideration Framework)と呼ばれる国のルール。背景には「まずシンガポール人と永住権保持者に公正な雇用の機会を与える」という強い方針があります。
このルールにより、企業は外国人を採用する前に、政府系求人サイト(MyCareersFuture)に最低14日間、求人広告を掲載する義務があります。



採用が決まる前からできる!“勝てる準備”チェックリスト
シンガポール転職を成功させるために、今すぐ準備できることをリストアップしました。
□ 応募者側
- [ ] 英文レジュメに具体的な数値で実績を盛り込む
- [ ] LinkedInプロフィールを最新化し、専門性をアピール
- [ ] 英文の卒業証明書を準備しておく(EP申請には第三者機関による学歴認証が必須)
- [ ] 転職エージェントに登録し、自身の想定COMPASSスコアを把握する
□ 企業との面接で確認・アピールすべきこと
- [ ] FCFに則った求人掲載(国内候補者への公募)が進んでいるか
- [ ] 自身のスキルがSOL(人材不足職業リスト)に該当しないか確認・アピール
- [ ] マネジメントや育成経験を伝え、企業のローカル雇用への貢献意欲を示す


よくある質問(FAQ)
Q. 学歴が高くないとEPは無理ですか?
A. いいえ。COMPASSは総合評価です。C1(給与)で市場価値を示したり、C5(不足職種)のスキルを持っていたりすれば、他の項目をカバーして40点を獲得できる可能性は十分にあります。
Q. 最低給与額さえ満たせばEPは取得できますか?
A. いいえ、それはスタートラインに立っただけです。C1(給与)スコアは、あくまで同業種・同年齢のローカル人材との「相対評価」。最低額ギリギリだとスコアは10点しかもらえません。
Q. 求人サイトで「急募」とあっても、選考に時間がかかるのはなぜですか?
A. シンガポール人優先ルール(FCF)により、政府系サイトで14日間の求人掲載が多くの企業で義務付けられているためです。どんなに急いでいても、法律で定められたプロセスを経る必要があるため、一定の時間がかかります。
まとめ:シンガポールが求める「高付加価値人材」になるために
ここまで見てきたように、シンガポールのビザ制度は、国が「どんな外国人に来てほしいか」という明確なメッセージの表れです。
それは、単に労働力を提供するのではなく、
「高い専門性」で市場をリードし、
「希少性」のあるスキルで国内にない価値をもたらし、
「現地への貢献性」でシンガポール人と共に成長できる人材。
この3つを意識して自身のキャリアを戦略的にアピールすることが、厳しいビザの壁を乗り越え、世界で最もダイナミックな国の一つで活躍するための鍵となります。
この記事が、あなたのシンガポールへの挑戦の第一歩となれば嬉しいです。


